名古屋高等裁判所 昭和54年(ラ)162号 決定 1979年9月20日
抗告人
甲野花子
右代理人
小島高志
外五名
相手方
豊橋信用保証株式会社
右代表者
吉田一男
外一名
主文
原決定を次のとおり変更する。
相手方が、相手方と甲野太郎間の名古屋法務局所属公証人天野正己作成の昭和五四年第一七四号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づいて、名古屋地方裁判所新城支部執行官に執行申立をし、昭和五四年六月七日別紙目録記載の物件番号七ないし一一の各物件に対してした差押はこれを許さない。
抗告人のその余の申立を棄却する。
本件申立費用及び抗告費用はこれを四分し、その一を相手方の負担とし、その余を抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。
二当裁判所の判断
1 本件記録によれば、原決定理由二及び三12の各事実(同決定一枚目裏六行目から二枚目裏末行までの事実)が認められるので、ここにこれを引用する。
2 抗告人は、別紙目録記載の物件(以下「本件物件」という)が、抗告人の占有にあるにもかかわらず、これを甲野太郎の占有にあるものとしてなされた本件差押は違法である旨主張する。
よつて判断するに、有体動産に対する執行は、対象物件が債務者の占有にあることが必要とされるが、ここにいう占有とは、外形上の物の直接支配をいうものと解され、建物内にある動産にあつては、通常建物の使用者の占有下にあるものとみるのが相当である。もつとも数人の家族が建物に同居し、又はこれを使用している場合に、動産そのものの性質、外形から特定の者のみの占有にあることが明白である場合には、その者のみの占有と認めることができよう。これを本件についてみるに、前記引用の原決定の事実関係からみられる差押当時の抗告人と甲野太郎の身分関係、マンシヨン借受けの状況甲野太郎のマンシヨン使用状況、抗告人と甲野太郎の別居事情等からすると、甲野太郎は差押当時、抗告人及び子供らと別居状況にあつたとはいえ、なお抗告人ら居住のマンシヨンを使用していたものというべきであり、同マンシヨン内の動産を抗告人らと共同して占有していたものと認定するのが相当である。もつとも、本件差押物件中別紙目録記載の差押番号七ないし一一の各物件は、その物件の性質及び外形からして、抗告人及び甲野太郎の子供三名(高校生一名、中学生二名)の専用品として使用しているものと認められるから、債務者である甲野太郎の占有下にある物件から除外するのが相当である。
なお、抗告人は、抗告人と甲野太郎とが差押当時別居状態にあつたことを理由に甲野太郎の占有を否定するが、その別居関係は、前記認定のとおりであり、夫婦関係が全く破綻し、財産関係についても清算しているような状況にないことは明らかである。したがつて、これによつて直ちに占有を否定することはできない。また、差押のさい必要とされる債務者の外形上の物の直接支配関係とは、常に継続的であることを要せず、別居関係にある夫婦であつても、その建物を断続的に使用するさいの一時的な動産の支配関係があれば、なおその物に対する占有を認めるに妨げないというべきである。建物内の動産は、その建物の居住者のみが占有するとの立論は採用できない。一件記録を調べてみても、別紙目録記載の差押番号七ないし一一を除くその余の物件に関し、そのほかに原決定を取消し又は変更するに足る違法の点はない。
三してみると、別紙目録記載の差押番号七ないし一一の各物件についてされた本件差押は失当であるから不許とすべきであり、本件申立は右の限度で認容し、その余は失当として棄却すべきである。
以上と異る原決定は、右の限度において変更することとし、申立費用及び抗告費用の負担について、民訴法第九六条、第九二条により主文のとおり決定する。
(柏木賢吉 加藤義則 福田晧一)
目録
物件 所在
一、カラーテレビ(日立Y7F 121358) 居間
二、ステレオ一組(パイオニアチユーナー 〃
ステレオアンプ、プレイアー、カセツトテープデツキ、デジタルタイマー、マイクミキシングアンプ、以上のケース、スピーカー)
三、電気ヤグラコタツ(上枚共) 〃
四、整理タンス(緑色抽斗五) 〃
五、ルームクーラー(日立RAS. 18045) 〃
六、サイドボード(ガラス戸2、抽斗3) 〃
七、金属性ガラス張水槽 〃
八、ギター 〃
九、本立学習机 三個 子供部屋
一〇、日立パデイスコ 〃
一一、スチール製本棚 〃
一二、木製本箱 〃
一三、上置付整理タンス 〃
一四、扇風機(NEC. NF30AL) 同右押入
一五、電気冷凍冷蔵庫(日立) 台所
一六、洋タンス 〃
一七、電気掃除機 台所
一八、食器戸棚 〃
一九、計量米ビツ 〃
抗告の趣旨及び理由<省略>